AUS漂流①  WWOOF 体験

 

2017年5月~6月

 

WWOOF制度を利用してノーザンテリトリー州(以下NT州)に位置するLitchfieldという場所で1か月程生活を送る。

 

WWOOF登録~ピックアップまでの流れ

簡単にWWOOFについて説明する。WWOOFはいわゆる農業ボランティア制度であり、年会費を払えばだれでも参加できるものである。インターネットよりwwoofに登録すれば、wwooferとして働く機会を得ることができる。しかしながら、これはあくまでもボランティアなので賃金は発生しない。その代わりに、滞在するホストより住居、食事が提供される。wwoofの団体は世界各地にあり、日本にもその団体がある。後、基本的に有機農業や無農薬栽培をしているファームがメインで参加しているはず。

ja.wikipedia.org

www.wwoofjapan.com

 

オーストラリアに降り立ってから1週間ほど無為な時間を過ごすしていたことに嫌気が差していた。そこで、どうせなら面白い体験をしてみようと思い立ち、WWOOF制度を利用して現地の農業を営む家族のところにホームステイ(ワークステイ)したわけである。

また、WWOOFを選択した理由としては、ホームステイのようなものにたいする憧れもあったが、現地の生活のリアルな様子も見ることができるし、その環境で生活すれば自然と英語も伸びていくことだろうという期待もあった。そして、当時は農業に大変興味があった時期だったので、何か今後農業をやるにあたっての参考になればという思いもあった。

ネットでWWOOF Australiaに登録し、NT州でWWOOFERを募集しているホストを幾つか絞った結果、NT州Litchfieldで農業を営むトンプソンファームというホストに決めた。

ホストマザーであるテレサと幾つかのメールのやり取りをして、後日ダーウィンに来るタイミングでピックアップしてもらうことになり、その日までが大変楽しみになっていた。

指定日を迎え、指定時間に、指定場所へ向かうが、彼女は表れてこない。ここはオーストラリアである。南国恒例のアレか、と思いつつ、若干本当に来るのだろうかという不安を抱えながら待つこと30分程、彼女は赤いセダンの車で現れた。軽く自己紹介をして、さっそく車に乗り込んで、彼女が住む家へと向かう。途中、スーパーに寄り食料を大量に買い込んでいた。それはこれから向かう地がドがつくほどの田舎なので最寄りのスーパーがソコであり、週に1度か2週に1度食料を必要な食料を大量に買い込むのだという。道中は、NT州らしい乾燥地帯の光景を見ることができて、いたく感動した。延々と続く道路沿いのブッシュや高々と建設されたアリ塚等、オーストラリアらしい景色。

 

生活環境

ダーウィンを出てから三時間ほど経つと、ダーウィンですらNT州というオーストラリアの僻地みたいな場所(一応NT州の州都で都会っぽい雰囲気はあるが)であるにもかかわらず、到着した場所はコレぞオーストラリアの田舎!という場所であった。

ようやく到着して車を降りると、雑種の犬二匹が血気盛んに吠え散らかし迎え入れてくれた。当時犬が苦手だったので、先が思いやられるなという不安は、案内された家を見てより増した。その家には、玄関がないのだ。玄関がないというより、屋根はあるが、正面の壁がないのである。コの字型をした家屋といえばわかりやすいだろうか。というのも、彼らは自分たちでその家を建築しているらしく、その形であるのは建築途中だからということである。トイレやシャワーも屋外にあるが、WIFIは通っていた。当時その家屋を写真に収めたなかったのを今になって非常に後悔している。

ここで一か月程お世話になった家族の構成は、ホストファーザーである巨漢のナイスガイのデイヴィッド、ホストマザーであり、いつも陽気な豊満な体を持つテレサ、3歳の年頃の娘エマ、1歳のみんなのアイドルのスティーヴィー。この4人家族プラス、自分がこの家に合流した時にはもう一人同じくwwooferのフランス人の女性が居た。後に、彼女が去った後にオーストラリア人カップル2組ほどのwwooferがこの家に向かい入れられた。

その衝撃的な家屋のダイニングでデイヴィッドが遅れて畑からやってきて自己紹介を済ませた後、家で生活するにあたってのガイドを受け、自分が寝床とする場所の話に移った。家には丁度寝るスペースがなく(実際にはあるのだが、先のフランス人の女性と一緒になるという理由で)、代わりに、過去にここへ訪れたヒッピーが置き土産として置いて行ったキャンピングバスが寝床となることを伝えられた。

 

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安心のTOTOTA製

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乱雑化していた車内

 

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ベッドスペース

正直この車に案内されたときはワクワクしたし、ベッドも今まで泊まっていたホステルのドミトリーとは異なり広くて独り占めできるし、なんて最高な生活なんだろうと胸がとにかく躍った。

そして食事の話に移ると、ここでは食事は自炊制だという。以前はテレサがWWOOFERに食事を提供していたが、小さい子供2人の育児もあるとのことで現在は中断しているらしい(確か)。その代わり、この家の冷蔵庫にある中身はすべて使っていいということであった。

翌日から始まる仕事に若干緊張感を覚えつつ、その日の食事を済ませ就寝した。確かにその環境に胸は躍ったが、やはり慣れてないと寝れないもので、その日はなかなか寝付けなかったことを記憶している。またある日には、寝ているときにバス周辺を家で飼い放されている牛たちに囲まれ、彼らの「モー」という鳴き声とともに一夜過ごす日もあった。

 

仕事

翌日、朝軽い朝食を済ませ、デイビッドとフランス人女性とともにオーストラリアらしいピックアップのランクルに乗り込み連れてかれたのは、ズッキーニ畑であった。丁度時期的に収穫物が少なく、自分が滞在していた時は主にズッキーニの収穫がメインの仕事であった。朝、夜明けとともに起床して、朝飯を軽く済ませて、一輪車(日本でいうネコ)を運んでズッキーニ畑に行って収穫する。それがこのファームでの朝のルーティンだった。

勿論ズッキーニの収穫以外にも、様々な仕事をさせてくれる機会を得た。どれも基本的にハードなものはなく、楽しみながら仕事ができたことに大変満足であった。久々に畑で働くにあたって丁度良い体慣らしになった。

WWOOF制度で取り決められている労働時間が一日6時間の週30時間以下とかであるから、ここでの生活は夕方まで疲弊しながら労働することはない。大体午前中か、昼すぎぐらいには一日の仕事が終わる。おそらく本格的な収穫期ではないからというのも一つの理由だったはずだ。

それまでオーストラリアに来る前には日本で農業の経験があったのだが、その時の働き方と大分異なることに正直驚きを覚えた。ファームの方針だとか、経営目標とかそういうのによって異なるのだろうが、ここのファームはまるで利益を求めることが一番ではなく、おそらくこの生活そのものを楽しんでいる様にも見えた。だからこそ、自分のようなWWOOFERを雇える余裕もあるのだろう。

 

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ズッキーニ畑

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収穫したズッキーニとスクワッシュ

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広大な畑だが、閑散期なのでほぼ何も無い

 

牛の屠殺

ある日、いつものように仕事を終えて、ダイニングでだらっとしているときにデイビッドが「牛を撃ちにいくぞ、来るか?」とショットガンを持ちながら尋ねてきた。もちろん、そんなビッグイベントを見逃すわけにはいくまい。すぐに行くと返事し、表に出ると近所(といっても結構遠かった記憶が)に住む子犬を連れたおっちゃんとフランス人女性とともにトラックに乗り込み、その現場へ向かうことになった。

先に我々が現場に着き、デイビッドが後からユンボに乗ってやってきた。ユンボを停めて、家から持参してきたパンプキンを地面に「カモーン」という掛け声と同時に放り投げ始めた。すると、牛たちがのろのろと茂みのほうからやってくるではないか。記憶では10頭以上集まっていたと思う。するとデイビッドはパンプキンをショットガンに持ち替え、一頭に狙いをつけて、銃を撃ちはなったのだ。この時銃というものを人生で初めて生で見て、そして銃の音を初めて生で聞いた。その光景は決して忘れることはないだろう。弾丸を撃ち込まれた牛はゆっくりと地面に倒れていった。そして周りの牛たちも危険を察知したのか足早と茂みに戻っていった。

しかしながら一頭だけが、デイビッドに警戒しながらも、その撃たれた牛の近くからなかなか離れることは無かった。家族だったのだろうか、仲良いもの同士であったのだろうか。はたまた恋人(ではなく恋牛)だったのだろうか。そんなことを想っているとやがて、その牛もついにはその場を離れていった。そしてすぐさま近所のおっちゃんが撃たれた牛の近くに駆け寄り、牛の首と急所を切り落とし、それらをユンボで地面に空けた穴に埋めた。印象的であったのは、首にナイフが入れられた時、その牛の目が徐々に力を失っていくというか、瞳孔が開いていったのを見た。正直生きてきて命が無くなるという瞬間に遭遇したのは初めてであったので、大変印象深かった。

残りの胴体をトラックに乗せ、近所のおっちゃん宅へと向かった。近所のおっちゃん宅で、その牛は、ロープのようなもので吊り下げられ、おっちゃんとデイビッドの二人の阿吽の呼吸で捌かれていった。その捌かれた肉は、おっちゃんの家でそのまま冷凍されることとなった。

あっけないといえばあっけないが、これが食肉のリアルであり、やっぱり私たちは肉を食する時には、ただの肉塊ではなくその生命を頂いているのだなということを実感した。

後日、その肉を使ってバーベキューをした。焼き方の問題か、単に質の問題か、それとも牛の屠殺場面が頭によぎったためか、その肉はまったく美味しくなかった。

屠殺の現場に居合わせ、その肉を頂くという一連の場面に、まさかこのオーストラリアという土地で遭遇する機会があるとは思わなかったが、それは自分にとって非常に大きな意味をもつ社会勉強にもなった。 

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トラックから撮影

 

 マーケット出店

またある日、ダーウイン近郊のある場所でマーケットに参加するとのことで便乗して一緒に連れて行ってもらうことにした。

朝早くから車に乗り込み出発し、公園のような広場のような場所で定期的にこのマーケットが開かれる。トンプソンファームもここの常連で、デイヴィッドもテレサも良くお客さんと話で盛り上がっていた。どうやら結構人気の店らしく、時間によっては人がひっきり無しにやってきていた。その前年か過去にスイカを売り出した時には長蛇の列が並び直ぐに完売したというようなことを彼らは話していた。

開店準備やちょっとした店の手伝いをしながら、たまに出歩いて周囲を散歩したり、同じ会場で催されているちょっとしたショーなどを見たり、その非常に平和で心地よい時を過ごしていた。

これもまた現地で学んだファームのリアルであるし、それは日本の農家で働いていた時に経験できなかったので、今後農業で糧を得ようとしていた自分にとっては、とても参考になった。

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出店

 

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マーケットの様子

 

休日

土日だったかどうかは忘れたが、週に二日は必ず休日があった。そういう時は、バスに籠って英語の勉強したり、パソコンにあらかじめ入れておいた映画やドラマなどを見たりしていたことが多かった。またある時には、オージーWWOOFERカップルと彼らの車でLitchfieldにある国立公園に行き、川遊びなどをしたり、家で談笑したり、トランプをしたり。最初のほうで書いたように、ここは最上級の田舎であるので、周りに街のような遊べるようなところはもちろんあるわけではないし、だれもそれを求めてWWOOFをやる人はいないだろうし、当然自分もそれを求めてなかった。だから別に退屈に感じることはなかった。

正直、当時はオーストラリア入国間もない時期で英語もままならないというより、オージー英語についていけないことが多かったので、彼らとコミュニケーションがうまく取れない時もあったことが非常に悔やまれるし、それで彼らに迷惑をかけることもあったであろうが、そんな自分と最後まで温かく触れ合ってくれた家族、WWOOFERたちには非常に感謝している。

 

転機 

そんなこんなで三週間ほど過ぎたあたり、賃労働をしたいという欲求が芽生えてきた。また、オーストラリアに2年在留するためのセカンドビザをとるために88日間仕事をせねばならないので、その日数をできるだけ先に取得しようという思惑もあった。そして、ネットで職探しを始めて、サンダルウッドファームの仕事を得たことをデイヴィッドに伝えると、彼もまた昔にサンダルウッドファームで働いていたらしい。

*1

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バナナの木と夕焼け

 そんな彼と働くときに別れを告げなければならない時が来たのである。最終日は、デイヴィッドにダーウィンまで送ってもらうことになり、最後は、みんなに激励を受け、別れを告げた。

 

ワーキングホリデーという雄大な時間があるときこそ、賃金は発生しないがWWOOFのような少し貴重な体験をするのも悪くないと思う。それによって、労働者‐雇用主という関係性でなく現地の人々と生活、仕事を共することができる。そのような経験は、自分の場合は、1か月という短い期間であったが、今後の生活への自信にもつながっていった。

 

*1:ちなみにデイビッドは若いころはバナナの房を2つ同時に抱えることができたという。後にバナナファームで働くことで知ったが、一つでもとてつもない重量なのに、それを二つ同時にというのは正直考えられなかった。とんでもない怪力。

そしてデイビッドにはもう一つ特殊能力があり、近くに毒蛇がいると察知するというものである。土地柄毒蛇が多い土地であるらしく、そんな土地環境で育ってきたデイビッドだからこそ得た能力なのだ。