行きつけの店

漫画を読んでいたら、まだ早い時間なのにもかかわらずなんだか眠くなってきた。大抵こういう場合は、普段平日であれば、何も考えず布団に潜り込むことにしているのであるが、今日は三連休の中日であった。そして、そういう場合は、行きつけの店にでも行って酒を何杯か呑み、日が跨ぐ前に帰宅することが多い。

しかし、その日はそういう気持ちにもなれなかった。今月は割と色々と出費していたから、少しでも節約しようという気持ちがそれに勝っていた。

だが、眠い時はどうしたって眠い。どうにかして、休日の夜を無駄にしたくなく、散歩に出かけることにした。最近は、涼しくなったから、夜外に出て歩いても、汗ばむことはない。ひんやりとまではいかないが、丁度いい快適な気温。

住んでいる場所が某有名寺から歩いて15分ほどなので、そこまで向かい、折り返してくることにした。そこまで向かう道すがら、閑静な住宅街がありつつも、ちらほら店があり、中から明かりが漏れている。

最近はコロナの影響で、普段ドアを開けていないこぢんまりとしたバーとかスナックの様な店でも開放していたりするので、いつもその店々を通るときには閉じられたドアが空いていたりすると、つい中を覗きたくなる。そして、その店がどういう人がやっていて、どういう店内かで自分がその店に入った場合の事を想う。

そんなことをしながら、某有名寺に近づくと、夜ではあるがまだ早い時間なので、周辺の観光客向けのような店はまだ開いていて、賑わっているところもあれば、休日にもかかわらずそうでないところもある。

その寺には、今の時代には珍しく喫煙所が幾つかある。いつも行く喫煙所で自販機で買った缶コーヒーを飲みながらタバコを吸う。喫煙所には誰もいないが、ちょうど後ろのほうにいる男三人組の会話が聞こえてくる。何の話をしているのだろうと耳をそばだててみるも、話の内容が全くわからなかった。話している言葉はとても鮮明に聞こえるのであるが、内容がわからない。もう少しその場に居れば恐らく大枠みたいなものはつかめたのであろうが、それをする必要は全くなかったので火を消して再び歩き出した。

やはり、帰りも普段通るような道を歩く。道中には、行きつけとは言えないが数回足を入れた店があった。ソウル等の音楽が好きなマスターがやっているスナックを改装した大変こぢんまりとした店だが、コロナ騒動以前に店を一旦閉めたのである。というよりも、本人は少し店を整理したいとの理由で一時閉店した。本来ならば、店を少し改装しようとしていたはずで、外の壁に窓を設けるために自身でサンダーか何かでつけた跡が壁に残ったままであった。

その店には機会があればまた訪れたいという気持ちがあり、寺方面に行く用事があれば、必ずその店を通るようにしている。しかしながら、時には鍵が掛かっていている場合があったり、鍵が開いていてもドアを開けていないことがあるので、まだ店は再開していないのだろうと、いつもその前を通りすぎる。

一度試しにノックしてみたら、マスターが出てきた。彼が言うには、まだ準備が整っていないという。あれからもう半年近くはたったのではないだろうか。それが、コロナ以前の話だったので、コロナが蔓延した状況で店をやりづらくなったのだろうか。

行きつけの店が閉店してしまったことが2回ほどあった。そして、閉店した後に、もっと行っとけばよかったと悔いるのである。実際は、まだその店々がやっていた場合、行く頻度はそう変わっていないだろうが。ただ、行きつけの店がなくなるというのは少し寂しい思いがするものである。

そのマスターがやっている店もどうか再び再開してくれることを願うばかりで、その日も様子をうかがいながらその店の前を通り過ぎる。

30分ほど歩いて帰宅したときでもまだ汗ばむ様子はなく、眠気さえ無くなっていた。夜が始まる。